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福岡高等裁判所 昭和25年(う)2849号 判決 1951年5月22日

控訴人 被告人 伊藤桂造

弁護人 田中廉吾

検察官 納富恒憲関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人田中廉吾の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここにこれを引用する。

控訴趣意第一点について

昭和二十三年法律第百七号による改正後の関税法第八十三条第三項によれば同条第一項又は第二項によつて没収すべき物を没収することができないときは、その物が貨物の場合はその原価に相当する金額を犯罪の用に供した船舶である場合にはその価格に相当する金額を犯人から追徴する旨を規定し、同条第四項には前項の追徴をなす場合にはその貨物の関税は犯罪当時の貨物の所有者より徴収する旨を規定しているのである。更に右改正前の関税法第八十三条をみるにその第一項には本法によつて没収すべき貨物を没収することができないときはその価格から関税及び消費税に相当する金額を控除した金額を犯則者から追徴する旨を第三項には右の追徴をなす場合にはその貨物の関税の犯則当時の貨物の所有者より徴収すべき旨を規定している。これによれば犯則貨物については右改正前には価格を追徴の基準としたのを改正後においては原価をその基準とすることになつたのであつて、しかもその原価の意義について特に規定するところはないのであるが、改正後の規定にいう原価はもとより輸出又は輸入に係る貨物の原価であるから、輸出又は輸入までの原価、すなわち製造原価に製造者の販売間接費を加算した所謂総原価を指称し、しかもその貨物の関税はこれに加算しないものと解するのが相当である。ところで原判決は本件密輸出貨物についてはその買入価格の二割引の金額を以て原価と認め、密輸入貨物中所論の黒糖については一斤十三円三十一銭を原価と認めたのであるが、訴訟記録によれば右密輸出貨物の買入価格は被告人の原審第四回公判における供述によつてこれを認定したもので、その買入価格の二割引の金額を以て原価を認定したことが前叙説明の意義における原価として不当に高価なものと認むべき何等の資料もない。又密輸入貨物中の所論の黒糖の原価は税関官吏作成の鑑定書に基いてこれを認定したもので、これ又原価として不当に高価なものと認むべき何の資料もない。それ故この点に関する論旨は理由がない。

同第二点について

前示改正後の関税法第八十三条中その第一項の規定は、その後更に昭和二十五年法律第百十七号によつて改正されたことは明であつて、右第一項についての改正はないという所論は誤りである。それ故右法律第百十七号の改正による同条第一項を適用した原判決は正当であつて論旨は理由がない。

同第三点について

被告人の所論の所為が原判決の適用した輸出貿易管理令第一条第三号の外に同条第一号及び同令別表第一の三十一の5・6に違反するとしても、かような主張は被告人の不利益を主張するに過ぎず被告人のための控訴においては適法の控訴理由と認められないから論旨は理由がない。

同第四点について

所論は昭和二十一年勅令第三百十一号違反について、本件起訴状に記載する訴因中には該犯行が被告人と武元貞彦外二十二名及び七森登等との共謀による旨の記載がないにかかわらず、これ等の者と共謀してなしたものと認定したのは違法であるというのである。しかし訴訟記録を精査するに原審検察官は原審第三回公判において右共犯関係について裁判官の許可を得て起訴状の訴因を原判決認定のとおり変更し、被告人及び原審弁護人もその変更に同意したことが明であるから論旨は理由がない。

同第五点について

訴訟記録を精査し、本件犯行の動機態様その他諸般の犯情を考慮するに、原判決の刑の量定は必ずしも不当に重いとは認められないから論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則つて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衛門 判事 二階信一)

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